働き方紹介Before → After
熊本県

理想のお店が無いなら作ればいい。地域に根ざした古着屋の新しい挑戦。

【熊本県】古着屋「サハール」店主
岩崎美結さん
19歳の時に全国にセレクトショップの店舗を持つアパレル企業に入社し、25歳まで熊本の店舗で販売員や店舗責任者として働く。26歳の時に、東京・渋谷の店舗に異動。さらに1年後に本社(東京)へ異動。29歳の時に退職し、地元熊本へ。自分が買い物をしたいお店を熊本に作ろうと、30歳で古着屋「サハール(SAHAR)」を開業した。

サマリー

アパレル企業に就職し、26歳で東京に異動した岩崎さん。憧れの東京で順調に出世していきますが、仕事はとても忙しく、自分が描く理想の生活と現実にギャップを感じていました。コロナ禍を機に地元に帰ることを決断した岩崎さんは、熊本で自分が理想とする古着屋「サハール」をオープンし、仕事と生活のバランスを取ることに成功しました。岩崎さんは今、お店を作ったことで見えてきた「経済を作りたい」という新たな目標に向かって進んでいます。

岩崎美結(いわさき みゆ)さん
熊本県熊本市ってどこ?

Q.1 仕事はどのように変わった?

Before

19歳の時に、アパレル店員としてのキャリアをスタートさせた岩崎さん。熊本の店舗に勤め、店舗責任者や販売戦略を立案する立場として活躍していました。そして、岩崎さんが26歳の時、人事異動で東京の渋谷店へ異動することに。
「東京はずっと憧れで、渋谷の店舗で働きたいと思っていました。流行の中心ですし、トレンドもすぐに追うことができる、キラキラした場所というイメージでした」。

憧れだった渋谷の店舗で働き始めた岩崎さん。会社の期待に応えるように、本社のMD(マーチャンダイザー)と呼ばれる花形部署、そして店舗のマネジメント業務を担う部署へと出世していきました。その一方で、岩崎さん自身はキャリアについて悩み始めていました

「30歳手前のタイミングでライフプランを考え始めたのですが、理想の生活と現実とのギャップが大きかったんです。このまま仕事を続けるべきか悩んでしまいました」。

仕事とプライベートのバランスを重視していた岩崎さん。理想としていたのは、「仕事も一生懸命やりながら、でも残業はあまりなく、パートナーや友達との時間をしっかり取る」そんなメリハリのある生活でした。しかし実際は、仕事が忙しく、日々の生活に精一杯な状態。

「『自分が思い描いていた30代ってこんなだっけ?』と思って。職場の先輩方もとても忙しそうで、自分の今の延長線上には理想の生活は無いと思いました。それで熊本に帰ることを考え始めたんです」。そんな中で訪れたコロナ禍。「仕事が減ったタイミングで、心も身体もゆっくり休みました。そして『やっぱり地元に帰ろう』と、悩みが決意に変わりました」。

After

地元、熊本に帰る決断をした岩崎さんでしたが、その時点では別のアパレル企業へ転職することを考えていたそう。お店を開業するきっかけは、意外なところにありました

「熊本にいる同い年の知人が、ベトナムのサンドイッチであるバインミー屋さんを開業したんです。その理由を『留学先のバインミーが忘れられなくて、熊本で食べたいなら自分で始めようと思った』と話していて、とても素敵だなと思いました。私が熊本に帰ろうと決めた直後だったので、同じような考え方で何かを始めるのもいいなと思ったんです」。

実は岩崎さん、服について似たようなことを考えていました。
「私は私で、熊本に帰ったらどこで服の買い物をしたらいいのだろうと思っていました。熊本の古着屋をいろいろと調べてみましたが、自分が理想とするようなお店はありませんでした。それなら自分で作ればいい、と思ったんです」。

こうしてお店を作ることを決めた岩崎さんでしたが、「元々計画していたわけではなかったので、最初は何も分からなかった」と言います。商工会議所の無料相談窓口で、開業の仕方や手続きの大枠、事業計画書の書き方、お金の借り方などを教えてもらい、自分でも勉強しながら開業にこぎ着けました。

熊本でなければ開業するのは無理だった」と語る岩崎さん。「コストの面でハードルが低く、競合も少ないです。また、熊本で働いていた期間が長いので、開業当初に知人が来てくれる点でも安心感があります」。また熊本は、アパレルや飲食など、個人で運営するお店が多い地域のようで、「皆さん協力的で、ショップカードを置かせていただいたり宣伝していただいたり、開業当初から励みになり、安心してオープンすることができました」と語ります。

Answer

地元・熊本でお店をオープンしたことで、開業当初から周りの人たちの協力を得ることができた。

Q.2 生活はどう変わった?

Before

「東京では、働くことと生活することのバランスが取れていませんでした」と話す岩崎さん。
「何かに追われるように起き、朝ご飯もオフィスで食べていました。日中は分単位のミーティングがあって、その合間に昼ご飯をパソコン見ながら食べ、気付いたら夜になっていたけれど仕事は終わらない。ヘトヘトになりながら電車で帰ったらもう10時。夜ご飯は食べたくないから、ビールだけ飲んで寝る。そんな生活でした」。

休みの日も、「泥のように寝ていた」と言います。「寝られるタイミングで寝ておこうと思っていました。休みなので友達と会う約束をしていることもあるのですが、起きたら夕方で、そこから家事をして出掛けていく、そんな生活でした」。

いわば「仕事をするために寝ているような状態」。それなのに仕事にやりがいを感じられていない。服は好きだけれど何か違うんじゃないか」と思うようになっていったそうです。

After

熊本での生活は「とても充実している」と話す岩崎さん。自分がしたい仕事をやっていること、そして時間に余裕があることが大きな要因とのことです。

「開店は13時からなので、朝はゆっくり起きて朝ご飯を食べ、自転車で熊本城の周りを通って出勤しています。五感で四季を感じると、人間らしい生活だなと思いますし、これが自分にとって大事なことだと実感します

営業時間の合間には、知人がコーヒーを持ってきてくれることもあります。一緒にコーヒーを飲みながらお話ししたり、お客さまが来たらゆっくり話したり。自分がコーヒーを飲みに行きたいと思ったらお店をちょっと閉めて、近くの知り合いのコーヒーショップに行くこともあります」。

20時にはお店を閉めるそう。家でゆっくりご飯を食べることもあれば、仕事終わりに友人とご飯を食べたりすることもあります。「熊本は狭い町なので、お店の周りで働いている友人も多く、気軽に会えるんです。それも帰ってきて良かったと思うことの一つですね」。

休みの日は、趣味であるラジオを聴いたり、本を読んだり、実家に帰ってご飯を食べたりと、ゆったり過ごしているそうです。

仕事とプライベートのバランスがずっと良くなったと語る岩崎さん。「昔と比べると、同じ24時間と思えない充実度です」と笑います。

Answer

「仕事をするために寝ている」アンバランスな生活から、仕事とプライベートのバランスが取れた充実した生活に。

Q.3 仕事に対する考え方はどう変わった?

Before

東京でとても忙しく仕事をしていた岩崎さん。「前の会社で接客をしていた時は、たくさんのお客さまがいらっしゃる中で、全員に対して不備が無いように対応していましたが、それはある意味『こなす』ような仕事だったように思います」。

本社へ異動した後も、「追われるように」仕事をしていたと言います。「毎日やるべきタスクが多くて、それを振り返る間もなく次のことが進んでいって、自分でも何をしているのか分からないような状況でした」。

それでも、「本社の仕事をやってみてよかった」と振り返る岩崎さん。「会社から期待されていたことと、自分がやれること・やりがいを感じることにギャップがありました。でも、それはやってみなければ分からなかったことですし、その経験によって得た気付きは多かったと思います」。

After

今の仕事について、「プライベートと仕事の境目がなくなっているような感じ」と語る岩崎さん。休みの日もお店に行って、撮影などの仕事をすることもあるそうです。

「休まないんですか?と聞かれることもあるのですが、お店は自分の空間なので、自宅みたいなものなんです。いらっしゃるお客さまも素敵な方が多くて、自分の家に知人が遊びに来るような感じなので、全然ストレスがありません」。

一方で、仕事に対するスタンスにも変化がありました。「前職では、仕事に対してドライだったというか、少し距離感があったような感覚があります。今は、全てが自分のお店やお客さまに関係するので、らゆることに真剣に向き合うようになりました」。

好きなことを続けられるようにする難しさも分かるようになりました」と岩崎さんは続けます。「プライベートのように働いているといっても、売上は大事ですし、会社の全ての部署を一人でやっている状態なので、大変さもあります。自由な生活を手にしているけれど、それを続けられるように、もっと頑張らないと、勉強しないと、という意欲はとても高まりました」と語ります。

Answer

自由な生活を維持するための向上心が生まれ、全ての仕事に真剣に向き合うように。

Q.4 仕事のモチベーションはどう変わった?

Before

26歳で東京に行くことが決まった時は、ずっと東京で働くつもりだったという岩崎さん。「こんな機会はもう無いと思いましたし、バリバリ働くキャリアウーマンになろうと思っていました。そうやって働くのが自分は好きだと思っていたんです」。

順調に出世していった岩崎さんですが、やっていることの大きさと反比例するようにお客さまの喜ぶ顔が遠のくように感じられ、モヤモヤしていたそうです。「気付いたことは、関わる人や動く金額の大きい物事を動かすことよりも、比較的小さいチームの中で成果を上げることの方が、喜びになるということでした」。

それでも頑張り続けていた当時の自分自身を、岩崎さんは冷静に分析します。
「本社に行く時、多くの人から栄転と言ってもらえました。本社の仕事も、企画や広報の人たちと話し合いながら大きな物事を進めていくのは楽しかったです。でも、そこにすがっていた部分があったと今では思います。途中から自分には向いていないと気付きつつ、周りからすごいと言われることに執着し、そんなすごい場所に身を置く自分を手放せなかったのだと思います」。

After

古着屋「サハール」を開業して2年目の岩崎さん。今後の目標として「お客さまの多くは20代後半から30代の方ですが、そういった方は出産や育児でお洋服から遠のいている方も多いんです。そういった方に、お洋服って楽しいということを実感していただけるようにしたいです」と語ってくれました。

「さらに、ちょっと大げさですけど」岩崎さんは付け加えます。「 経済を作っていきたいと思っているんです」。

岩崎さんのお店では、ビンテージビーズや天然パールを使用したアクセサリーを扱っていますが、その制作は熊本で子育てをしているデザイナーにお願いしているそうです。また、ショップの写真を撮る時は、知り合いのフリーランスのカメラマンさんにお願いしているそうです。

「そういった仕事がきっかけで、パールのアクセサリーを扱うお店がうちの店以外に増えたり、お店のお客さまが来店をきっかけに、ファミリーフォトの撮影をそのカメラマンさんに依頼したりすることがあって、そういう時にもお店をやっていてよかったと思えるんです。私のお店は洋服を売っていますが、いろいろな仕事を一緒にしていくことで、自分で何かを始めたい人の窓口になっていけたらいいなと思っています。自分のできる範囲で仕事を作ることを、お店として支援していきたいんです」。

自分が大事にしたい人たちと仕事を作ること。そして、身近な人たちと作った経済を大きくしていくこと。岩崎さんの目には、ありたい未来の姿が見えているようでした。

Answer

仕事と生活の理想のバランスを実現したことで新たな目標が生まれ、そこに向かって仕事をするようになった。

編集後記

熊本に移住し、自分のお店を開業したことで、理想の生活を実現した岩崎さん。生活に合わせてお店の開店・閉店時間を決めたり、開店中もコーヒーを飲んでゆったり過ごしていたりする一方で、理想の生活を続けるために仕事に対するスタンスがより真剣になっていると語っていて、そのメリハリが印象的でした。
また、「経済を作りたい」という目標もユニークで印象に残りました。自分のお店をただ発展させていくのではなく、周りの人たちと協働して仕事を作り、地域の皆で豊かになっていく。これからの働き方、生き方として一つのモデルになっていくのではないかと感じました。